特 集

〈むすびや〉鳴子の思いをにぎる。
ゆきむすびがつないだ、地域の食。

情報掲載日:2022.03.19
※最新の情報とは異なる場合がありますので、予めご了承ください。

「お米って何?」を考えるお店

鳴子温泉・中山平は、鳴子の中でももっとも山形県境に近い地域。
周囲は奥羽山脈を連ねる山々に囲まれ、冬には家が埋もれるほどの雪が積もります。

 

そんな寒さ厳しい鳴子の山間地でつくられるお米、“ゆきむすび”。
新米が出るとすぐに売り切れてしまうほど、人気のお米です。

 

この“ゆきむすび”を使ったおむすびが食べられるお店「むすびや」は、
中山平温泉駅から歩いて5分ほどの場所にあります。

 

素朴な店構え。外には、丁寧な手仕事が垣間見える干し柿が吊るされていました。

 

近くには「南原穴堰」という400年近く前に作られた田んぼのための水路があり、
地域の人たちが代々維持管理をして、今日まで利用されてきました。
夏にはたくさんのホタルが飛び交う姿も見られます。

 

そんな自然あふれる土地で、ゆきむすびは生まれました。

 

店内に掲示されている言葉。思わず立ち止まって考えてしまいます。

 

 

「鳴子の米」をつくる

全国的にも農業の担い手が減り、地域の農業の存続が危ぶまれている近年。
寒冷地である鳴子は米作りに不向きであるとされ、
農業の衰退はより深刻なものとなっていました。

 

「鳴子の農業をなんとかしなくては。」
危機感を持った地元の農家や役場職員が立ち上がり、
2005年、“鳴子の米プロジェクト”がスタートしました。

 

プロジェクトの歩みを綴った冊子。地域の皆さんの熱い思いが伝わります。

 

まず、寒い環境の中でもよく育つお米はないかと、古川農業試験場に相談をもちかけました。
すると、普通の田んぼでは美味しく育たないという理由で
まだ世に出ていなかった「東北181号」という品種と出会います。

これが、のちの”ゆきむすび”です。

 

寒さに強いこの品種の特性を活かそうと、
鬼首地区の農家によって試験栽培が行われることになりました。

 

田植えがはじまる5月には、まだ山に残雪が見える鬼首。
山から湧き出る冷たい雪解け水が、直接田んぼに流れ込みます。

 

そんな環境が東北181号に合ったのか、秋には見事に黄金色の稲穂がたわわに実りました。

 

鳴子の田園風景(お店提供)

 

その後、この品種は“ゆきむすび”と名付けられ、全国へ販売されることに。
「東北181号」は日の目を見ることができたのです。

 

 

全国に広がったゆきむすびの輪

ゆきむすびはお米の大切さを知ってほしいという理由から、市場へ出荷するのではなく、
予約販売という形でお客様へ直接発送されています。

 

リピーターも年々増え、その名は全国へと広がりを見せています。
今では予約販売の受付が始まるとすぐに売り切れてしまうほど人気のお米となりました。

 

毎年手作業で発送されるゆきむすび(お店提供)

 

2009年に、ゆきむすびで作ったおむすびを販売する「むすびや」を川渡地区にオープン。
しかし、2年後の東日本大震災により建物の被害を受け、
店舗の営業を続けることができなくなってしまいました。

 

全国のファンからお店の復活を望む声も多く、
2店舗目となるお店を構えることになりましたが、資金不足がネックに。
そこで、クラウドファンディングに挑戦することを決めました。

 

すると、ゆきむすびを毎年買ってくれているお客様、
田植えや稲刈り交流会で親交のある家族、
研究のため鳴子を訪れていた学生など、たくさんの方から支援が集まりました。

 

稲刈り交流会の様子(お店提供)

 

結果、目標金額を上回る支援額となり、
2017年4月、中山平でお店を再開することが叶いました。

 

おむすびに使う食材は自ら現地へ足を運んで厳選したもの。地場のものがほとんどです。

 

 

想いの詰まったバトンを引き継ぐ

店舗が再開してしばらく経った後、
当時スタッフとして働いていた伊藤さんは、店長としてお店を任されることになりました。

移転前にお店を切り盛りしていたお母さんたちは、身体がつらくなってきたこともあり、
次の世代である伊藤さんにバトンが渡されたのです。

 

店長の伊藤沙織さん(右)とスタッフの大場法子さん(左)。

 

おむすびの絶妙な握り加減や、塩の振り方などはお母さんたちの直伝。
その技術と想いを引き継ぎ、ゆきむすびと鳴子の農業を多くの人に知ってもらおうと奮闘しています。

 

おむすびと味噌汁のセット。日本人なら誰もがほっとする味です。 ※現在店内飲食はできません。(2022年3月時点)

 

メニューには人気の塩むすびや青菜巻の他、季節限定の商品も。

伊藤さんのおすすめは、
季節によって味付けが変わる「しょうがの炊き込み」(土日限定)だそうです。
しょうがのさわやかな香り…、想像しただけでおいしそう!

 

塩むすび100円~とリーズナブル。思わずたくさん買ってしまいそうです。

 

現在はお持ち帰りのみの営業となっていますが(2022年3月時点)、
冷めてもおいしいのが特徴のゆきむすび。

 

お家に帰ってからいただくと、お米一粒一粒の甘味と存在感がしっかりと感じられました。
これは子供もパクパク食べてしまいそうです。

 

一番人気の麹なんばん味噌焼き。味噌の香ばしさがたまりません!

 

 

ゆきむすびの美味しさ、鳴子の農業を知ってもらいたい

鳴子の豊かな自然のもと、様々な努力や苦労が実を結び誕生した”ゆきむすび”。
震災を乗り越え、たくさんの人のご縁によって引き継がれていった“むすびや”。

 

世代を超えて一歩一歩進んできた地域の取り組みを、
おむすびを通して知ることができました。

 

私達が毎日食卓でいただくお米が、どこでどのように作られているのか、
それらの背景を知ることで、より食べ物の美味しさに気付くことが出来ると思います。

 

「美味しいお米を食べて、大人も子供もにこにこ笑顔になってほしい」
そう伊藤さんは願っています。

 

オリジナル手拭いも作りました。 予約購入の方への限定品でしたが、欲しいという声が多く販売もしています。

 

取材中、近くに住んでいるというおばあちゃんが来店。地域の人にも重宝されています。

 

鳴子の希望がぎゅっと詰まった”ゆきむすび”に、
あなたもきっと笑顔になること間違いなし。

 

とびっきりに美味しいおむすびを求めて、
中山平まで足をのばしてみてはいかがでしょうか。

 

 

(撮影:佐竹 歩美)

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馬籠美南|ツナグ編集室

大崎市内のNPOに勤める傍ら、ツナグ編集室にて素敵な人の発信に携わる。持続可能な社会をつくりたい。ボールを追いかける系のスポーツが好き。

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